プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律が2021年6月4日に可決しました。テレビなどでこの法案による生活への影響として、コンビニ店頭でのスプーンやフォークの提供が有償化すると報道されていたものです。

まずはどのような法律なのか、この法律の概要を確認していきたいと思います。

趣旨

海洋プラスチックごみ問題、気候変動問題、諸外国の廃棄物輸入規制強化等への対応を契機として、国内におけるプラスチック資源循環を一層促進する重要性が高まっています。これを踏まえ、プラスチック使用製品の設計から廃棄物処理に至るまでのライフサイクル全般であらゆる主体におけるプラスチック資源循環の取組を促進するための措置を講じます。

経済産業省

海洋のゴミ問題は一般大衆にわかりやすいから引き合いに出された感じがする。

法律制定の趣旨の筆頭に、海洋プラスチックごみ問題が挙げられています。日本でマスコミの話題に上っているのはマイクロプラスチックの問題とレジ袋の問題です。クジラやウミガメなど海洋生物がビニールをクラゲと間違えて食べてしまう。可哀そう。そしてとてもわかりやすい。身近なところでこの法案が可決するとコンビニのスプーンが有償化されるというのもあります。

しかしながら海洋廃棄物の問題はプラスチックだけではありません。このコロナでステイホームをしている間にたまたま見たこちらのドキュメンタリー「Seaspiracy: 偽りのサステイナブル漁業」では、海洋廃棄物の半分は漁業の網などからくるものとして問題視されています。

海洋ごみをテーマに取り組むんだったら、プラより影響大きいんだからそっち先に議論してもよかったんじゃないか?という感じがしなくもない。気候変動問題についてもオセアニアの海洋国家が水没するとかインパクトある映像が記憶に定着している。わかりやすい。

Netflix Seaspiracy: 偽りのサステイナブル漁業

でもいろいろじっくり見ていくと、3つめに挙げられた「廃棄物の問題」がターゲットで、この法案を作っている(ようにしか考えられない)。日本はプラゴミの山に沈むか、全部ゴミ焼却場で燃やしてしまうかの瀬戸際になってきている。容器包装リサイクルではフォローしてこなかった廃プラのリサイクル(サーマルを含めて)をこの法律で整理したのだ。

日本からの廃プラ輸出先上位の国・地域の推移

日本からの廃プラ輸出先上位国を整理すると、2017年までは圧倒的に中国・香港が多かったものの、2018年からは台湾や韓国の他、マレーシア、ベトナム、タイといった東南アジア各国に分散している。

公益財団法人 東京都環境公社 輸入規制の動向(2020.10時点)
東京都環境公社 輸入規制の動向(2020.10時点)より

廃プラスチック輸出先は2017年までは日本→中国がメインでしたが、これが規制されたことで行き場を失った廃プラスチックが多量に国内にダブついています。日本国内での廃プラスチックの処理費が高騰しているというのも処理施設による処理が追い付かないから、という報道もあります。この急激な輸出の減少にはバーゼル条約が関係します。

廃棄物の輸出入の規制はバーゼル条約・バーゼル法による

1980年代に、先進国からの廃棄物が途上国に放置されて環境汚染が生じるという問題がしばしば発生したことを受け、こうした課題に対処するためにバーゼル条約は、採択されました。
有害物質を含む廃棄物や再生資源などの貨物の輸出入を行う場合に、当該貨物がバーゼル法に規定する「特定有害廃棄物等」や廃棄物処理法に規定する「廃棄物」に該当する場合には、関税法の手続きに加え、「外国為替及び外国貿易法」(外為法)に基づく経済産業大臣の承認、環境大臣による確認等を受けることとなっています。

経済産業省 バーゼル条約・バーゼル法

国際的に規制が進んできた結果、日本政府の課題として、この国内にダブついた廃プラスチックをどうにかして処理しなければならない、という今回の法案の成立の背景がようやく見えてきました。

品質が一定しない廃プラ処理の問題

容器包装リサイクル法で対象としたペットボトルなどの包装材。用途が決まっているため素材は限定的。ところが廃プラ法の対象となっている商品は幅が広いため、ひとことにプラといっても組成が違っています。

実際に材料リサイクルを行うにはどういったことが必要でしょうか。東京都環境公社が容器包装リサイクルを行っている事業者からヒアリングをした内容がWebで公開されています。

受け入れ基準について
単一素材であること、大きさ(粉砕され10~20mmであること)、においがないこと、異物がないことが基準となる。再生ペレットは出荷先で着色されるため、色は混合でよい。

異物の量が重要となるが、産廃事業者は見た目で取り除くレベル、リサイクル事業者は洗浄と乾燥で取り除くレベルであり、差がある。

由来が明らかであるプレコンシューマー材(工場端材等の市場に出ていないもの)と異なり、ポストコンシューマ材(回収した家電などの一度市場に出たもの)の場合は素材の種類や物性を自社で確認しなければならない。汚れの有無や物性の確認を念入りに行っており、リサイクルレベルを向上させている。どこまでコストをかけられるか、企業の考えが重要である。

東京都環境公社 Y社(材料リサイクルを行う事業者)ヒアリング状況

異物、素材の種類、物性の確認、汚れ。廃プラリサイクルの壁は高い。

リサイクル事業者の説明にあるように、廃プラをリサイクル(再生利用)しようとすると、かなり高度な分別を必要とするようです。となると結局のところ、高度な技術をもってして分別を行うことでリサイクル処理費が高騰します。それは国民の負担として税負担に跳ね返ってくることに直結してしまいます。

目下のところは廃プラの処理を進めなければなりませんから、その整理をすることは急務です。しかし重要なことはプラスチックそのものの利用削減を国策として進めることです。また環境負荷の高いプラスチックから、生分解プラスチックなど環境負荷の低い素材への代替が進めば海洋ごみ問題の軽減につながります。プラ素材研究を国策としてより強力に推進することもセットで行うことが必要ではないでしょうか。